水を山に登らせて、温泉をつくる——箱根・大涌谷の造成泉
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水を山に登らせて、温泉をつくる——箱根・大涌谷の造成泉
箱根の温泉は、山の中から自然に湧いた湯をそのまま旅館まで引いている——そう思っている人は多いかもしれません。自然湧出や各宿の自社源泉もありますが、噴気地帯では別の仕組みも欠かせません。
地下から取り出した火山性の蒸気に、山の上まで運んだ水を混ぜて温泉をつくる。こうした湯は、供給会社や業界では造成泉(蒸気造成温泉)と呼ばれます。造成泉は劣るのか?——成り立ちと泉質の考え方。温泉法上も温泉であり、純温泉協会の分類では噴気造成を前提にした純温泉Dの説明とも重なります。
本稿では、箱根温泉供給株式会社の大涌谷系と、株式会社小田急箱根の早雲山・強羅系を中心に、事実関係を整理します。施設ごとに源泉の取り方は異なります。Ynosis の施設ページで「加水」「掛け流し」を必ず確認してください。
箱根の一部は「水を上に運び、蒸気と混ぜる」
大涌谷一帯は自然湧出だけでは、旅館・保養所が必要とする量を安定確保しにくい、と箱根温泉供給は説明しています。1930年(昭和5年9月17日)の同社設立以降、大涌谷の火山性蒸気と仙石原の地下水を組み合わせる造成供給が本格化しました。
箱根全体がすべて造成泉というわけではありません。 湯本の自社掘削源泉や、姥子の浅い自然湧出など、経路は温泉地ごとに分かれます。造成泉の話は、主に**大涌谷・仙石原・強羅(早雲山系)**の送湯網の話です。
仙石原の水を、大涌谷まで2,961m
造成用の水は、仙石原イタリ湿原付近の地下水です。通称イタリ池(貯水量約6万㎥)に一度貯め、4か所のポンプ場を経て大涌谷山頂付近の貯水池へ送ります。
同社の公表値では、イタリ池から大涌谷まで総延長約2,961m、高低差約350.80m。毎朝、その日の使用予定量に合わせてバルブを開き、大涌谷の造成現場へ送り、各造成装置へ振り分けます。
大涌谷の温泉は酸性が強く硫黄分も多いため、一般の水道メーターが使えず、堰の切欠きから流れ落ちる高さで流量を換算する方法を、創業当初から使っている、とも同社は説明しています。
蒸気井と造成装置——タンク型と塔型
大涌谷では、地下の蒸気井(ボーリング孔)から火山性蒸気を取り出します。蒸気の温度は井戸・時期により異なり、研究所報告ではおおよそ110〜150℃前後の例が示されています(百数十度と説明されることもあります)。そのままでは入浴できないため、水と接触させて温泉を造成します。
造成装置は大きくタンク型(溜めた水の上から蒸気を吹き付ける)と塔型(下から蒸気、上から水。内部の仕切りで接触面を広げる)に分かれます。単にボイラーで温めているのではなく、火山ガス由来の成分を水に溶け込ませる工程です。
同社は、造成温泉について「加水・加温の届出対象ではない」とも説明しています。分析は、自然湧出分と造成分を混合した状態で専門機関に依頼し、「大涌谷温泉」として分析表を発行している、とのことです。
自然湧出の約30%が混ざる
できあがった造成泉は、そのまま送湯だけではありません。大涌谷で自然に湧く自噴温泉(同社総湯量の約30%)と混合し、造成装置への用水配分で温度・量を整えてから、仙石原・強羅などの支線へ送られます。
つまり配管内の「大涌谷系の湯」は、造成+自然湧出の混合です。施設の浴槽でさらに加水・加温・循環があるかは、各施設次第です。
つくるより、流し続ける方が大変——硫黄と湯の花
大涌谷の造成装置・送湯管には、硫黄や湯の花が一晩で付着するため、毎日の除去が必要だと同社は説明しています。作業現場は硫化水素・二酸化硫黄など火山ガス濃度が高く、防毒マスク着用が前提です。
造成装置から出る直径150〜200mmの配管は、場所によっては半日で詰まることもあり、1日2回、竹製の払い棒を連ねて管内清掃する、とのこと。造成塔7基は、壁面の硫黄を外側から叩いて落とし、週1〜3回程度の清掃頻度が目安とされています。湧出量だけでなく、湯の花・硫黄の付着と配管保守が温泉地インフラの一部です。
早雲山から強羅——小田急箱根の蒸気井温泉
箱根の造成泉は大涌谷だけではありません。株式会社小田急箱根 温泉事業は、1958年(昭和33年)から本格的な蒸気井温泉(造成温泉)供給を行っています。
早雲山の蒸気井から、温泉成分を含む約100℃近い蒸気と、箱根山中の水源地から集めた約13℃の湧水を造成桝で混合し、約60℃程度まで上げて強羅エリアなどへ送湯します。送湯管は早雲山〜強羅が約6,000m、早雲山分譲地区が約800m、合計約6,800m、いずれも自然流下方式です。
早雲山分譲地区向けには、箱根温泉供給の大涌谷温泉(蒸気井温泉)を購入して供給している、とも小田急箱根は説明しています。強羅では、ケーブルカー線の北側に大涌谷系、南側に早雲山系が主に使われる、という整理が温泉地学研究所の解説にもあります。
「人工温泉」ではない——でも境界の話
火山ガスに水をかけるから「人工のお風呂」と誤解されることがあります。神奈川県温泉地学研究所の解説では、蒸気造成温泉も温泉法上の温泉であり、「天然/人工」というラベル自体が温泉には馴染まない、という趣旨の説明があります。
造成には人の手と設備が入ります。一方で熱源は火山の地下、水も箱根の地下水・湧水です。火山性温泉の延長線上に、送湯インフラが載っている——そう捉えると、浴槽の分析表の読み方も変わります。
次に箱根で硫黄泉や酸性系の湧出の分析表を見たら、「どの系統の送湯か」「施設側の加水・加温はどうか」をセットで確認してみてください。
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参考文献・資料
- 箱根温泉供給株式会社「温泉の造成と供給のしくみ」(hot_spring.html)
- 箱根温泉供給株式会社「大涌谷温泉について」(造成と温泉表示、oowakudani_treatment.html)
- 株式会社小田急箱根「温泉事業」(group/onsen)
- 神奈川県温泉地学研究所「噴気地帯の温泉」(観測だより72号、PDF)
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